【音語り】「波音と煌めきのコントラスト」 倖田來未 – Summer Trip
波とキラめきのコントラスト。眩しい 日差しがアスファルトを揺らし、新郎の ように景色を歪ませていた。うだるような 暑さの中、彼はただ焼けた地面を見つめて いた。まるでその熱の中に自分の心を 溶かしてしまいたかったかのように日々の 幻想絶まない情報人との患らわしい関係 全てが重となって彼の肩にずしりと のしかかっていた。遠くから聞こえるセミ の声は彼の心をさらにはつかせた。この ままではいけない。そう思いながらも何 から手をつければいいのか分からなかった 。ただ時間が過ぎていくのを無意に感じて いた。しかしそんな日常に一筋の光が 差し込んだのはある日のことだった。友人 が何気なく言ったは羽を外してみたらと いう言葉が彼の心にストンと落ちた。その 言葉に導かれるように彼はただ1つ夏の海 へと向かうことを決めた。初めて訪れる その場所は彼の想像をはるかに超える美し さだった。どこまでも続く白い砂浜 ターコイズブルーに輝く透明な海、そして 空に吸い込まれるように高く伸びるヤシの 木々。そこには彼の知る世界とは全く違う 時間が流れていた。彼は思わず持っていた 荷物をひり出し、裸で砂浜を駆け出した。 足の裏に感じる砂の温かさ、そして波が 打ち寄せるたびに押し寄せる冷たい感触。 その全てが新鮮で彼の心を解き放っていく ようだった。波打ち際で足を止め、海を 眺める視界一ぱに広がる青い世界。その中 に身を委ねるように彼はゆっくりと歩みを 進めた。波が彼の体を優しく包み込み、 日中の熱を帯びた体をクールダウンさせて いく。海に入ると水中で体が軽くなる感覚 に驚いた。重力から解放されたように心 まで軽くなる。南雲に浮かび空を見上げれ ばそこにはどこまでも続く青いキャンバス が広がっていた。彼の心はまるで絵の具を 溶かすようにその青に溶け込んでいった。 気づけば彼は無邪気に波とたれていた。 子供のようにただひたすらに目の前の瞬間 を楽しんでいた。水し吹きをあげ笑い声が 響く。それは彼がどれだけ長い間忘れてい た感情だろうか。日が傾き始め、空が オレンジ色に染まり始める頃、彼は砂浜に 横たわった。波の音が小もり歌のように 心地よくゆっくりと彼の体を揺らす。日中 の幻想が嘘のように静まり返った浜辺で彼 はただ目を閉じていた。頭の中に浮かんで きたのは過ぎ去った日々の中で彼が抱えて いた悩みや不安だった。しかし海の音を 聞いているとそれらが遠い記憶のように 感じられた。まるで波がそれらを洗い流し ていくかのように彼はゆっくりと目を開け た。そこには燃えるような夕日が水平線に 沈んでいく光景が広がっていた。空は コクコとその色を変え、オレンジ、ピンク 、そして紫へと映り変わっていく。その あまりの美しさに彼は息を飲んだ。海は彼 に大切なことを教えてくれた。それは人生 にはただ身を任せてみることも大切だと いうこと。そして目の前の瞬間を互感で 感じることの喜びだった。夜が訪れると空 には満点の星がま瞬き始めた。都会では 見ることのできない圧倒的な星空。彼は 砂浜に座り込み、ただひたすらに星を眺め ていた。1つ1つの星がまるで宝石のよう に輝き夜空を彩っている。遠くから 聞こえる音楽が彼の耳に心地よく響く。 それは賑やかな海の家から漏れ聞こえる アップなメロディだった。 彼は思わずそのリズムに合わせて体を 揺らした。心が自然と踊り出すような そんな感覚だった。夜の浜辺を散歩する 砂浜に残された足跡が波に現れては消えて いく。まるで彼の心の中の不要なものが 少しずつ消えていくようだった。彼はこの 旅が自分自身を解放するための旅だった ことに気づいた。そしてそれは彼が想像し ていた以上に深くそして豊かな経験となっ た。翌朝彼は再び海へと向かった。昨日の ように無邪気に波とたれるのではなく、 今度はゆっくりとその広大さを感じながら 泳いだ。水面から顔を出し、遠くの水平線 を眺める。そこには何も遮切るもののない ただただ広がる青い世界があった。彼の心 はまるでその青に溶け込むようにどこまで も広がっていくような感覚だった。彼は この解放感を忘れないだろうと心に誓った 。そしてこの夏の経験を胸にまた日常へと 戻っていく。しかし彼の心には波音と キめきのコントラストが鮮やかな記憶とし て刻み込まれていた。この夏が彼にとって 単なる季節のうついではないことは明らか だった。それは彼の心を解き放ち、新たな 自分を発見する旅だった。波の音、太陽の 光、そして夜空の星。それら全てが彼に 生きる喜びを思い出させてくれた。彼は もう一度あの海へ戻りたいと願うだろう。 そしてその度にこの夏の解放感を思い出す だろう。彼にとってこの夏は永遠に続く 波根のように心に響き続けるだろう。
【音語り】「波音と煌めきのコントラスト」
倖田來未 – Summer Trip