「ヒラガキ」が希望の光に 環境変化でカキ大量死…後継者不足で苦境の岩手・山田町【ワイド!スクランブル】(2026年3月10日)

 東日本大震災の津波で、大きな被害を受けた三陸のカキ養殖。その産地の一つ、岩手県山田町では、これまでと異なる品種のカキを使った、新たな養殖に乗り出している。

■環境変化でカキの大量死

山田町漁師 福士貴広さん(56)
「いったん全部流されてなくなっちゃった」

 三陸海岸有数のカキの養殖地として知られる岩手県山田町。

 東日本大震災の津波で、ほぼすべての養殖いかだが流され壊滅的な被害を受けた。

 825人が犠牲となり、漁師の福士さんも家族を失った。

福士さん
「おばあさん2人はダメでした」

 震災から15年。漁師たちの力で、山田湾の養殖は少しずつ復興を遂げたものの、今は新たな問題に直面している。

山田町の漁師
「半分以上死んでいます」

 今月6日、山田湾で水揚げされたカキの多くが死んでいた。

山田町の漁師
「2、3年前ですかね。急にこうなってしまいました。水温が高いせいか分からないけど。みんな大変だって言ってます。生活できなくなるからね」

 養殖のカキが急激な環境変化などで大量に死ぬ「へい死」と呼ばれる被害だ。

 ここ数年は深刻で、出荷できるカキの量が震災後の最盛期に比べ、半分以下に落ち込んでいるという。

■ヒラガキが希望の光に

 復興を遂げた海に再び訪れた危機。そんな中、新たな希望として注目されているのが、福士さんが、山田湾で見つけていたある品種のカキだ。

福士さん
「こちらが山田湾でとれたヒラガキです」

 ヨーロッパヒラガキは、マガキに比べて平べったく、丸みを帯びている。濃厚なうまみと独特な苦みが特徴で、ヨーロッパでは高級食材として知られるカキだ。

 実はこのヒラガキは1952年から山田湾で養殖されていたものの当時は売れず、次第に養殖は途絶えていた。

 姿を消したと思われていたが、山田湾でひそかに生き続けていて、それを福士さんが見つけていた。

福士さん
「震災後、水温がちょっとずつ高くなっていると話をしたころから、結構(ヒラガキが)増えたんです」

 福士さんは、水温が高くなっても増殖したこのヒラガキが、いつか役に立つかもしれないと育ててきた。

 しかし養殖ビジネスへつなげる糸口は見つけられずにいた。

 震災から12年、そんな状況に変化をもたらしたのが、2022年に赴任した、岩手県水産技術センターの研究者・寺本沙也加さん(31)。

福士さん
「どこに問い合わせても全然相手にされませんでした。それで寺本さんが突然現れて」

寺本さん
「このきれいなのを見て、何だろうとなったんですよ。インスタで見た時に。こんなカキみたことない、知らない」

 寺本さんは、ヒラガキが三陸の海で生息していることを知らなかった。

 興味を持ち、研究を行ったところ、マガキが死んでしまう状態の海でも育つ可能性があることが判明。2024年から、県で試験養殖を行うことが決まった。

■貝類の研究者の道へ進んだきっかけ

 大学時代には貝の図鑑を出版するほどの“貝好き”の寺本さん。

 岩手県陸前高田市の出身で、幼いころから自宅近くの海で貝をとるなど、海に親しんで育った。

 そんな寺本さんも震災を経験した一人だ。

寺本さん
「震災の当日は大船渡湾が見える高台から津波の様子を見ていたんですけど、今後どうなっていくんだろうというのがすごく気になって、震災直後から海に行って」

 家族は無事だったが、自宅は津波で流された。その状況でも寺本さんは、津波による影響を調べるため海に向かったという。

寺本さん
「(震災)直後から、貝たちは戻ってきていて、海というのは強いんだなと見ていて思いました」

 震災で大きな被害を受けた三陸の海。それでも海には確かな生命力があった。その姿に魅せられ、寺本さんは貝類の研究者の道に進んだ。

 そして、寺本さんの研究者としての知見が、山田湾でのヒラガキ養殖への道を開いたのだ。

■今秋の試験販売を目指す

福士さん
「何人かに協力してもらって集めてもらった(ヒラガキ)」

寺本さん
「立派ですね。ヨーロッパでいろいろな市場を巡ったんですけど、このサイズは一回も見ませんでした」

 養殖は、福士さんを中心に行っている。

 ホタテ貝にヒラガキの稚貝を付けるという山田で行われているカキの養殖技法を使えば、ヨーロッパ産のものよりも大きく育てられると考えている。

 実現すれば水温上昇に負けず、カキの漁獲量を増やすことができるだけではなく、高値での販売も夢ではない。

福士さん
「この年になってね。この年になって夢があるっていいですよね」

 今年の秋には試験販売を目指しているという。

 震災から15年…三陸の海は今、新たな挑戦の中にある。

寺本さん
「いつか自分の得意なことを地元のためにできたらいいなと思っていたのが、やっと実現できたかなと。ちょっとかもしれないけど。それを思うと、うれしいなと思っています」

福士さん
「ちょっとじゃないですよ」

寺本さん
「そう言ってもらえたらうれしいです」

■漁師の深刻な後継者不足

 ヒラガキの養殖の挑戦は始まったばかりだが、町が抱える、ある課題の解消にも期待が寄せられている。

 栄養豊かな3つの川が流れ込む山田湾は、湾の入り口が狭く、外海の影響を受けにくい静かな海であることから、カキなどの養殖が盛んだった。

 養殖されたカキは震災前の2009年には、およそ1250万粒の漁獲量があったが、去年は170万粒ほどにとどまっている。その原因の一つが漁師の後継者不足。

 三陸やまだ漁協によると、震災前はおよそ1000人の人がカキの養殖に携わっていたそうだが、現在では半分の500人ほどに減少しているそうだ。

 また、働いている人の平均年齢は64歳と、漁師の高齢化と若い世代のなり手不足が大きな課題だという。

 そうした中、山田町ではヒラガキをブランド化し、売り出すことに期待を寄せている。

 岩手県水産技術センター専門研究員の寺本さんによると、ヒラガキはスウェーデンでは1個およそ1500円で販売されるなど、ヨーロッパでは高級品として知られているそうだ。

 日本人にはなじみが薄いヒラガキの魅力を伝えるため、独特な苦みと合う、日本酒とのペアリングなどを提案し、町の新たな特産品にしたいという。

 ヒラガキの養殖に取り組む、漁師の福士さんは「付加価値の高いヒラガキの養殖が本格化すれば、新たに漁師に挑戦したいという若い世代が増えるのではないか。若者が夢を抱ける場所に、山田町がなれれば」と話した。

(2026年3月10日放送分より)
[テレ朝NEWS] https://news.tv-asahi.co.jp

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